映像授業と医学生

「なあおい、MECどこまで進んだのだよ」

「おれはまだメジャーも終わってねえよ」

というのは要するに医師国家試験用の映像授業のことである。

医師国家試験は受験者の9割が合格する試験であり、そう聞くとなんだか簡単な試験のように思えるがとんでもない。その試験範囲たるや想像を絶し、参考書たるイヤーノートとかいう本は人を殴れば殺せるくらい分厚い。だいたい医学部に来るぐらいだから全員勉強が得意なのだ。そんな連中でも1割落ちるのである。大抵の医学生は恐れ、焦り、互いに目配せしながらしのぎを削る。

そんな彼らの助けになるのが医師国家試験専用の予備校であり、映像授業なのだ。もはや全国の医学部でこれを採用していないところは無いだろう。もちろんこれをやらないと受からない訳ではないが、そこは医学部のこと、みんながやっていることはやらないといけなくなるのである。下の1割になりたくない。その強烈な欲動が彼ないし彼女らを突き動かしている。

そもそも医学生というのは、そもそも奇人な癖に「外れる」ことを極端に嫌う習性がある。世間並みの大学生でいたいという強い欲望がある。それでシッチャカメッチャカな飲み会をやったり、西医体、東医体といった医学部だけの体育大会に出るのだが、それらが全く世間並みの大学生のやらないことだというのに気づいていない。彼らは致命的にずれていくのだ。しかし世間並みの人間でいたいから、普通のテレビドラマ、映画、アニメなどを好む。医学生はその偏差値の割に知的好奇心が薄く、独立心が弱いのもこの辺りが原因かもしれない。病院という失敗が許されない組織の中で生きる上では知的好奇心の薄さは大変有用だが、果たして医師として有用だろうか。

 

今日も彼らは映像授業の進捗を探り合う。どうにも絵にならぬ。