謙遜
「いやア、僕そんな勉強してないですヨ」
しかし彼は昨年学年一位だったし、せっせと基礎研究、国試、USMLEの勉強に勤しんでいることを知っている。
「そうなんだ」
「そうですヨ。もう遊んでばっかりいますヨ」
「なにして遊んでいるの」
「もうずっとニコ厨ですネ。あとは楽器を…」
「楽器」
「そうなんですヨ。ひたすら淫夢動画を…」
「楽器はなにをやっているの」
「めっちゃマイナーなんですヨ。バンドネオンてんですけど」
「知らないなあ。どんなもの?」
「アコーディオンみたいなもんですヨ」
「なんでそれ始めたの?」
「な ん と な く」
彼がバンドネオンを始めたのはまったく誇り高い人間なので、あえて「他人のやっていなさそうな楽器」をやろうと思ったからである。つまりギターやベースなどという俗な楽器は優秀な彼にふさわしくないといった訳なのだ。
しかし彼が正直なところを私に告げることは無いだろう。彼は謙遜な人間だからだ。
医学部には奇人が多い。それは私もやはり世間から見れば異常人であるのだろう。