病院見学

「オイ、お前さあ、メメ病院に見学に行ったってなァ」

「なんで知っているんだよ」

「根も葉もない噂を聞いたんだぜえ」

という何の益もない会話が医学部ではよく聞かれる。

病院見学とはつまり就職活動のことで、4年から6年の春にかけて医学生は自分が就職したい病院に見学に行くのだ。

病院にも「ハイパー病院」「ハイポ病院」というのがある。

ハイパーというのは初期研修がいとど厳しく、ばっちり仕込んでくれるところだ。有名な病院であり、日本中から「オレはいちばん賢いんだもんね」と憚らぬ、英語もしゃべっちゃったり、手先も器用、勉強も抜群な日本医学をリードする素晴らしい意識高い人たちが集う。

一方ハイポというのは研修がゆるい病院だ。世の中楽して銭儲けというわけではないが、昨今医療業界が多忙なことは有名なので、それなりのペースでやっていきたいと思う人々が集まる。どちらの病院も人気であるが、ハイパー病院にだれが行ったかというのは医学生の最大の関心事の一つである。

 

医学部というのは小さな村である。

全員出席必須、ひとつでも単位を落とさば即留年の中で必然的に学生は閉鎖環境を形成する。

その村では、となりの田吾作が肥溜に落ちたというレベルの話が貴重な娯楽となるのだ。だから医学部内で恋愛するものどものうわさは光より早く学内を巡る。みんな刺激に飢えている。就職話もその娯楽の一つであり、しかも医学部特有のプライドが他者が「ハイパー病院」に行くのがどこか悔しい、という感情も手伝うのだ。

 

さて彼等は自分のことを「平均的な大学生」だと思っているが、果たしてどうだろうか。

再受験生の私にも最近よく分からなくなってきた。しかし多くの患者方が「医者は変わり者が多い」と思っているらしいから、やっぱり医学部は異常なのだろう。