臨床実習

「おうてめーいい度胸じゃんかよ。この薬の処方どういうつもりだと言うのだよ」

と言われてもこっちは学生で、カルテを写したに過ぎないのだ。

「なめてんのかてめーは」

先生はしめサバみたいな目でおれを見てくる。

修羅場をくぐった外科医というのはこんなものなのか。

「訳のわかることだけを書けよ。わかったのか」

 

「うふふ、ゴーシュさんたらかわいい」

「それほどでもうふふ」

「かわいいうふふ」

病棟のパソコンでレポートを作るのは学生の責務だ。そして臨床実習の班内で孤独であったとしてもそれをがまんするのも学生の責務だ。

「ね、愛してる、って言ってみて、それからにらめっこよ。笑ったらまけよ」

「わかった。愛してる。」

「うふふ」

「あ。笑った」

「笑ったね」

「うふふ」

「うふふふ」

もてない男がつらいのは有史以来だ。

だから人間なんてうまれなくてよかった。

ゾウリムシみたいに接合子で増えていた時代は悲しみなどなかったはずだ。

つらい。

 

「というわけでコロナが出ました」

出ちゃったから仕方ないのである。

「自宅待機をお願いします」

感染症との闘いも有史以来だ。

人間は未知の感染症と闘い続けてきた。

だから医学生もできる範囲で闘わねばならない。

下宿の部屋でぼんやりしている。

臨床実習というのはこうしたものなのだ。