マキャベリズム
「あのねエ日乗さん。もっと人生を楽しまなきゃだよ」
「うーん」
「だって日乗さん童貞でしょ?」
「うん」
「留年してるでしょ?」
「うん」
「彼女いないでしょ?」
「うん」
「ハアーッ」
彼は眉を潜め、にやにやと笑いながら私を見る。
「いやーッ、駄目。駄目駄目。現実的じゃない。マキャベリって知ってる?」
「君主論の」
「バルタザールグラシアンは?」
「いや」
「ハアーッ」
彼は勝ち誇ったように私をにやにやと見る。
「やっぱり駄目だわ」
彼は入学当初こそ自信なさげだったが、恋人ができ、「賢い」成績のいい人々の仲間入りをしてから勢いが良くなってきた。いまや功利主義と合理主義と権謀術数の修羅道を愛している。成績のいい人々に忠誠を誓い、私のような人間を軽蔑する。
医学部とは人間の間のどこにでもある社会である。そして有史以来繰り返された間違いを犯し続ける。