淀五郎と糸を切る事

「先生、糸を切るの、ちゃんと見ていた?」

と問われたのである。

「見てはいました」

「見て『は』か」

外科の先生は苦笑した。

「先生、口で教わるとかないから、見て覚えることしかないよ」

 

淀五郎という落語がある。

淀五郎は若手の役者だがある日判官をやる役者が病気になった。

それで大星由良之助をやる役者、団蔵が淀五郎を後釜に据えたのだった。

しかしながら淀五郎は若手、判官はうまくつとまらぬ。団蔵は下手な淀五郎に愛想をつかして花道の七三から動かない。

「おめえさん、自分は判官をやる柄じゃねエって、そう思って人の判官を見ずにいたろう」

と、淀五郎を懇意にする先輩役者仲蔵が忠告するのであった。

 

実に外科の糸切りなんぞもその類いで、自分がやらないと思って見ていればやり方は覚えないのである。

万事、自分がやるかもしらん、自分がやるにはどうすればよいのかと思いながら見れば、まず良い学びと言えよう。