器用

医学部というのは器用な集団である。

すべからく入るのに広大な勉強が必要だし、入ってからは入るのに必要な勉強の二-三倍はしなければ留年する。したがっていきおい人々は器用にならざるを得ないのだ。

彼らは基本的になんでもやれと言われたらこなすことができる。医学部はほぼ全員が体育会系の部に所属しているため、体力もそれなりにある。手先も器用だ。金持ちが多く、顔もいいのが多い。ギリシャ神話の半神のごとき世界かもしれない。

 

しかし私はある山の山小屋にて働いた折、季節労働者たちの器用さに目を見張った。働くことにかけて彼らは素早く正確であった。これは医学生には無く、その事実に医学生自身も薄々気づいているから第一の鬱屈がある。

さらには医学生の周りも医学生なので、自分と同等かそれ以上の器用さの中で評価を受ける。それで自信を無くす。これが第二の鬱屈である。

 

医学生は自意識が高く、敗北を嫌う。それで切実に器用でありたいと願うが、患者の側から見た良き医療者の能力とは乖離することが多いようだ。医学生や医者は、患者の為というより、自意識のために勉強しており、それがたまたま結果的に人の利益になることがある。そのように人のことを見ていないから、訴訟になったり苦情を申し立てられたりするのかも知れないと思う。